モクジ

  再会  

 季節は、初夏。
 日毎、暑くなる日差しは、常に薄曇りのさみだれの里も例外ではなく、旅の一座の最後尾で歩くツユは、眩しげに紅の瞳を眇め、編み上げ傘をかぶり直した。
 あれから、一年と少しの歳月が流れた。
 龍神に愛された、あの女とまみえるのも、一年ぶりだ。
いまだ瞼の裏にはっきりと思い出せる面影に、心が躍る。
「愉しそうだな、ツユ。何か良いことでもあるのか」
「そんなんじゃないさ」
 からかうような座長のそれを、ツユは軽く受け流した。
 さみだれの里に繋がる険しい山道を上ると、開けた里が見えた。
 視界の先に、大石の上に腰を下ろした黒髪の女が見える。
 つややかな黒髪をふわり靡かせて、女が振り返った。
「ぬしら遅いぞ、待ちかねた」
 文句を口にしながらも、出迎えてくれる霧雨の顔は、満面の笑顔だ。
 屈託ない童女のようなそれは、記憶にあるものと寸分たがわず、ツユは密かに安堵する。
 頭領という重石を背負いながらも、霧雨の伸びやかな本質は、変わらないらしい。
「これはこれは……、頭領御自らのお出迎えとは、痛み入ります」
「よせ、気色悪いぞ。ツユ」
 おどけたツユのそれに軽く舌を出し、霧雨はツユの隣に駆け寄ると、驚いたように彼の顔を見上げた。
「しばらく会わぬうちに……ずいぶんと背が高くなったではないか。ツユ」
 一年と少し前、霧雨の襲名の儀式の時には、ほぼ変わらないか、やや勝っていたはずの背丈が、いまやもうツユの方が頭一つ分は、はっきり高い。
 のみならず、ひょろりとしていた首筋や手足は、逞しい男のものになり、その風貌は少年の域をすぎさり、青年と呼ばれるものに羽化しつつある。
 相も変わらず、とても綺麗な顔をしていても、最早、少女と見間違う者はいなかろう。
「どうも。そっちは、小さくなったみたいだな。霧雨」
「馬鹿を言え、ぬしが大きくなっただけだ」
 この前まで並んでいた癖に、と拗ねるように紅い唇を尖らせて、霧雨はツユを仰ぎ見る。そんな彼女の些細な嫉妬が可愛いらしくて、ツユは口角を緩めた。
「来年は、もっと成長するさ。身体も心もな」
 当然のことのように口にすると、気負うでもなく、ツユはさらりと続けた。
「そうして、近い日に龍神から、あんたを掻っ攫える位の男になるよ」
例え、神が恋敵だとしても、負ける気はない。
「……なっ!」
 言葉の意味を察した霧雨は、柄にもなく赤面する。
 くつくつという愉快そうな笑い声が、蒼穹にこだました。

 霧雨は、龍神の花嫁であり、そして、ツユの唯一無二、最愛の女である。
モクジ
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